ものがたり絵 版画 ほしあつめ 石居里佳
一枚の絵に込められた物語
(文・あゆわら代表 榎本)
「わたしの絵には、とっても長い物語があるんです!」
とある展示会で、画家の石居里佳さんから聞いたこの言葉は印象的でした。
石居さんの絵は、一枚一枚にいろいろな背景があるように感じます。
「何が描かれているんですか?」と質問したところ、絵の一枚一枚に本一冊分ほどの物語があり、その一場面を絵にしているとのこと。
その物語を聞いた後に改めて絵を見ると、絵の細部細部に意味が込められている事が分かります。物語の情景がありありと思い浮かび、感動が深まりました。
言葉だけでなく、絵で物語が完成しています。絵の力を実感しました。
少し長いですが、物語を掲載しましたので、みなさんもぜひお読みの上、絵をご覧ください。
「ほしあつめ」 石居里佳・作
なるべくいびつな場所がいい。
そう思いながら夜の街を彷徨い歩いていた彼女にとって、この廃ビルはうってつけだった。
建設途中でうちすてられたのか剥き出しの鉄骨やワイヤーが無様に突き出し、絡まり、錆が浮かび始めている。
おざなりな「立ち入り禁止」の囲いをまたぎ超え、暗いビルの敷地に足を踏み入れた。彼女が目指すのは屋上、いや、むしろその先だった。
遮るもののない屋上には冷たく強い風がふいていた。彼女は乱れる髪を気にもとめず屋上の端まで歩き出した。
のっぺりとした夜空の先にビルの灯りがきらめいている。
つい数ヶ月前に彼と見た夜景はあんなに美しく目に映ったのに、いま遠く眺めるビル街のひかりは、まるで地面に叩き落とされたクズ星の群れのようだった。あわれだった。今の彼女自身のように。
強い風にあおられて軽くたたらを踏み、おもわず手すりを掴む。その拍子に、目の端が夜景とは違う小さな光を捉えた。
見ると、屋上の別の端に人影が佇んでいた。
こんなところに誰が来るのかと彼女は自分を棚に上げていぶかしんだ。
見たところ人影は一人で、しかもかなり大きな荷物を背負っている。
小さな光はその荷物から漏れているようだ。ナップサックの底に、切り忘れた懐中電灯でも入っているのだろうか。
浮浪者かもしれない。
もしくは、わたし同様行き場をなくして飛び降りにきた誰か?
だとしたら、投身自殺のブッキングなんていくらなんでも笑えない。惨めすぎる。
どちらにしろ関わりたくない。向こうが気づいていないあいだにそっと降りて場所を変えようと踏み出した瞬間
「ああ、やっぱりここだ」
人影が喋った。
自分の存在に気付かれていたのかととっさに考えたが、どうも違うようだ。独り言だったらしく人影は相変わらず夜の街を眺めている。
しかし彼女が何より驚いたのは、その声音の若さだった。むしろ「幼い」声だ。
そういえば確かに背も小さい。彼女の胸に届くかどうかくらいしかない。
相手が子供、、、おそらく小学生くらいの少年とわかり、彼女の警戒心はほどけていった。
そしてかわりに、この場所にあまりにもそぐわない彼へ、意外なほど興味や心配が湧き上がってきたのだった。
彼女はすこし逡巡したが、結局、彼へ近づいて声をかけた。
「ねえ君、ここで何してるの。」
少年はぱっと振り返った。ハーフかクォーターだろうか、大きな瞳とあちこち跳ねる癖毛が可愛らしい子だ。
少年が口を開く
「毎度ありがとうございます。『飾り星』のご希望でしょうか。それとも修理のご依頼でしょうか?」
ハキハキとした口調に、今度は彼女が面食らってしまった。
「えっ」
「え?」
続く言葉が見つからず、しばし無言で見つめあっていると、少年が「あっ」と何かに気付いた顔をして言った。
「しまった。ここでは星を売れないんだった」
「、、、は?」
少年はぱっと口を押さえて、また『しまった』ともごもごつぶやいた。
「いえ、忘れてくださいお気になさらず。えー、、、すまほげーむの話ですから。ではごきげんよう」
彼はそのままきびすを返し、なんと屋上の手すりを乗り越え始めた。
手すりの向こう側には錆びた鉄骨が一本、平均台のように突き出している。もちろん一歩でも踏み外したら助からない高さである。
彼女はとっさに少年の上着を掴んだ。
「ちょっと!やめなさい!」
「えっ、何するんですか。離してください。」
「死んじゃダメ!あんたまだ子どもじゃない!いくらでもやり直せるから!」
「え?えぇ?」
私が言える立場じゃないなと頭の片隅で苦笑いしたが、こうなったら引き返せなかった。
「落ちたらほんとうに死ぬよ!」
「落ちるわけないでしょう。もう星が降りてくる時間なんです急いでるんです!、、、あっゲームのはなしですから!」
「いやゲームって絶対嘘でしょ!」
全然話が噛み合わないが、とにかくこのまま手を離すわけにはいかなかった。
寒空の下の引っ張りあいは彼女に軍配が上がり、ふたりはもんどり打って尻餅をついた。
「うわっ」「きゃっ」
するとその拍子に、少年の背負う荷物の覆いが解け意外なものが現れた。それは、大きな鳥籠だった。
しかもそのなかには、蛍でもイルミネーションでもない光る「何か」が無数に入っており、ふわふわとゆらめきながら明滅しているのだった。
彼女は、打ちつけた尻をさすっているおかしな少年のことも一瞬忘れ、目の前の未知なる光景に呆然とした。
「え、これ、なに、、、?」
呟く彼女を尻目に
少年は突然、弾かれたように夜空へ顔を向け
「来た!」と声に興奮を滲ませながら立ち上がった。
つられて彼女も見上げると、小さなひとつ星が目に映った。
そのまま見つめていると奇妙なことに気がついた。その星は、
細かく震えながらだんだんと輝きを増してくるのだ。
やがて彼女は気づいた。光が強くなっているのではなく、近づいて来ているのだと。それはものすごい勢いでこちらへ向かってくる「星」だった。
彼は急いで頭ほどの大きさの瓶を肩掛けから取り出し、今度は引き止める隙もなく鉄骨の先端へ向かってしまった。
その姿は機敏で危なげなく、自殺願望など微塵も感じさせなかった。
混乱に満たされたまま、彼女は手すりから身を乗り出して夢中で少年へ向かって叫んだ。
「あ、、、あなた「何」なの!?」
声に一瞬振り返り、少年は嬉々として答えた。
「ぼくは、『いちばん美しい星』をさがしにきたんだ!ほら!」
言って空の瓶を頭上にかかげる。
いよいよ光り輝いて迫ってきた「星」は、彼の頭上2メートル程の位置で急停止し、一転、羽毛が落ちるようにゆっくりと瓶へ降りてきた。
すると星の動きに反比例するように彼女の体が突然浮かび上がった。
瓶を掲げる少年に変化はない。
彼女はパニックになりながらも必死で手すりにしがみつくが、浮き上がる体に逆らえずついに手が離れ
そのまま虚空へ投げ出されてしまった。真下には底知れない暗闇が口を開けている。
瞬間、凄まじい怖気(おぞけ)が彼女の全身を駆けめぐった。
「たすけて!!!おちる!!」
まともに声になっているのか自分でもわからない極限の叫びだった。
そして星が瓶の中に収まった瞬間、強烈な光が迸り世界が真っ白にスパークした。ぐるりと体が回転した感覚を最後に彼女はついに気を失った。
気がつくと彼女はビルの真下で横になっていた。身体に痛みはない。
静寂のなか、立ち入り禁止と書かれた囲いが暗闇の中でうっすら見えている。ゆっくり起き上がるとき、無意識に握りしめていた右手から小さなかけらが転がり出てきた。
それはかすかに光を放ちながらふるふると震えていたが、つまみ上げて手のひらに乗せると徐々に砕けて消えてしまった。彼女はからになった掌をしばらく見つめ、それから夜空を見上げた。
小さな星が、美しく健気に輝いていた。
(おわり)
石居里佳
1980年生まれ愛知県名古屋市在住。
看護師として10年近く勤めるも、イラスト、物語、お芝居好きが嵩じてイラストレーターに転身。
現在はクラシカルで繊細なタッチを活かし、懐かしく優しく、少し切ない、そんな物語を感じるイラストを描いています。
【商品の説明】
作家 石居里佳が、絵と物語を考え、表現したオリジナルアート。ジクレー印刷の版画です。(企画・制作・販売 :あゆわら)
仕様 | ||||||||
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絵を引き立てるシンプルフレーム
天然木を使用したフレームです。木目を消さないナチュラルな塗装。色も形もシンプルで、絵を引き立てる。今どきのおうちによく似合う定番フレームです。
ホワイト・ナチュラル・ブラウン・ブラックの中からお好きな色に変更することも可能です。ご希望の場合は、ご注文時備考欄に「○○フレームに変更希望」とご記入ください。
風景写真や風景画(絵画)などのアートをインテリアとしてお部屋に飾り、
癒やしの空間を演出しませんか?
新築祝、開店祝、結婚祝や誕生祝などのおしゃれなギフト(プレゼント)としても好評です
絵といえば、ピカソ、ルノワール、ゴッホのひまわりといった名画が有名。
そのほか、フェルメールの青いターバンの少女(真珠の耳飾りの少女)を思い浮かべる人も多いはずです。
西洋画だけでなく、赤富士・富士山や桜といった日本画もよく聞きます。
アートはインテリアとしてリビングの壁に似合うことも大切です。
たとえばディズニーのようなかわいい壁掛け・壁飾りもおすすめ。
絵画は癒し効果もあるので、プレゼントとしてのご利用も多いです。
納期目安:この作品は、通常1週間かからないぐらいから2週間のお届けです。お急ぎの場合は、ご相談くださいませ。精一杯対応いたします。
人気作品紹介
ひまわりの丘1 スペイン・アンダルシア 10,000円(税込11,000円) スペインのアンダルシア地方のひまわり畑をモチーフに、明るくさわやかな風景をイメージして制作された創作アートです。 あゆわら創業期から続く、オリジナルアート。署名、ロット番号入りでの販売となります。 |
壁掛け桜皮細工(かばざいく)
18,000円(税込19,800円)
200年以上続く日本の伝統工芸 桜皮細工。
その伝統工芸を今どきの家に似合うようシンプルに新しくデザイン。
発売開始が日経新聞で記事になりました。
楽天ランキング1位も受賞した人気作。
あゆわらオリジナル企画・販売作品です。
リーフパネル モンステラ 4,999円(税込5,499円) 両面ガラスで背景が透ける珍しいフレームに、模造の葉っぱを配置。 植物は、主張が強すぎず、どこでも飾りやすい。 水やりも必要なく、枯れないし、壁掛けなので場所もとらない。 手軽なみどりなのが人気の理由。 |
アートフォト 青空と雲
10,000円(税込11,000円)
青い空に白い雲、緑の大地。
これぞ、北海道 富良野という印象の風景。 雲の形から風を感じます。
ここに行って、しばらく寝そべりたいです。
モネ 庭園のアーチスト 15,454円(税込16,999円) 印象派の大画家クロード・モネ作 「アルジャントイユのモネの庭」の複製画です。 鮮やかなダリアの群生と庭に佇む男女の対比が印象的です。 109cmx44cmという迫力あるサイズでこのお値段。 しかも、絵の表面に手作業でデコボコをつけ油絵の質感を表現するゲル加工付き。 |
アートフラワー ゴールドエース
10,580円(税込11,638円)
枯れない・清潔・手間いらず。
お花育てが苦手な人にも好評。
生花と違い、雑菌が少なく、水やりなどのお世話も必要なし。
飾れる期間を考えると経済的。
光触媒で消臭・抗菌効果も。
お祝いでも定番人気です。
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ミディ胡蝶蘭(生花)
4,800円(税込5,280円)
かわいらしいお花が特徴的。
黄色や白の品種、他サイズも取り揃えています。
品種改良により9か月も咲き続けるほど強い品種も登場。
世界らん展日本大賞など各賞受賞。
お誕生日祝いでも好評です。
黄色や白の品種、他サイズも取り揃えています。
アートフレーム 虹 2,250円(税込2,475円) 虹さんが帽子をかぶってる。 虹に書いてあるメッセージは、 「I wish you are always Smiling.(ずっと笑顔でいられますように)」。 飾ってると、毎日笑顔で過ごせそう♪ |
レントゲンフォト レッドマグノリア
22,579円(税込24,838円)
お花のレントゲン写真。
通常の写真撮影ではこのように透けません。
お花のかれんさ、生命力を感じるアート。
ゲルアート 目ざめのキス 7,675円(税込8,443円) 青く広がる海。白い雲。 地中海でしょうか。 眺めていると潮風を感じそう。 絵の表面に手作業でデコボコをつけ油絵の質感を表現するゲル加工アートです。 |
アートグリーン 壁掛けフィロ
3,579円(税込3,938円)
光触媒フェイクグリーンの壁掛け。
壁に飾って、お部屋にナチュラルなグリーンをプラス。
枯れない上に、水やりの必要もない手間いらず。
光触媒の消臭機能付き。
みどりは、洋室・和室 どのお部屋にも合う万能アートです。
ゲルアート サマー コーブ 10,210円(税込11,231円) 海沿いに立ち並ぶカラフルな家。 青い海にのんびり浮かぶ白いヨット。 オレンジ・赤・黄色。あざやかなお花が咲く美しい庭。 こういう場所でのんびりしてみたい。 絵の表面にデコボコをつけ油絵の質感を表現するゲル加工。 1点1点手作業で制作しています。 |
おすすめ商品の紹介
【版画 絵画】ひまわりの丘1 スペイン・アンダルシア/インテリア 壁掛け 額入り 風水 アート アートパネル リビング 玄関に飾る プレゼント モダン アートフレーム おしゃれ LLサイズ
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27,000円(税込29,700円)
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