ものがたり絵 版画 祈り 石居里佳
一枚の絵に込められた物語
(文・あゆわら代表 榎本)
「わたしの絵には、とっても長い物語があるんです!」
とある展示会で、画家の石居里佳さんから聞いたこの言葉は印象的でした。
石居さんの絵は、一枚一枚にいろいろな背景があるように感じます。
「何が描かれているんですか?」と質問したところ、絵の一枚一枚に本一冊分ほどの物語があり、その一場面を絵にしているとのこと。
その物語を聞いた後に改めて絵を見ると、絵の細部細部に意味が込められている事が分かります。物語の情景がありありと思い浮かび、感動が深まりました。
言葉だけでなく、絵で物語が完成しています。絵の力を実感しました。
少し長いですが、物語を掲載しましたので、みなさんもぜひお読みの上、絵をご覧ください。
「祈り」 石居里佳・作
彼女はごく一般的な「生活支援型」アンドロイド。
「最新型に買い換えたい。」
そんな理由で、量産品の彼女は、ある家庭に買われては、リサイクルショップに売られる。
そうして、いくつかの家を転々としていた。
AIの性能のせいで愛想のない彼女。持ち主たちはそれ相応に素っ気ない態度で命令した。ときには八つ当たりで殴ったりもした。
幾度めかのリサイクルショップ。彼女はついに定価の2割以下で売られるようになった。そして、彼女はある老婦人の元に買われていった。
郊外で一人暮らしをしている老婦人。そんな生活を心配した息子は、高性能アンドロイドを贈ろうとした。しかし婦人は「そんな高価なものは要らない」とかたくなに断った。押し問答の末、妥協点として訪れたリサイクルショップ。そこで、婦人みずからが彼女を選んだ。
婦人との生活は、これまで彼女が過ごしてきた環境とはまるで違った。
今どき珍しい田舎の簡素な家に住み、つつましやかな庭で野菜を育てる婦人。そして暗くなったらランプの灯で聖書を読み、敬虔な祈りを捧げて一日を過ごした。
家電が充実しているこの時代。彼女の搭載機能に「薪の燃やし方」「食べられる野草の探し方」などあるはずがない。はっきり言って彼女は役立たず。
しかし彼女は婦人の後に静かに付き従い、時代遅れの脆弱なAIの学習機能を精一杯働かせながら、婦人の日々の動作を学び取った。
当初、アンドロイドなど必要ないと考えていた婦人は、彼女を「移動する家具」程度に扱い無視をしていた。
しかし、邪魔をせず、かといって手伝いもせず、ひたすら影のようについてくる彼女。婦人は彼女が次第に気にかかるようになった。いつしか、彼女の姿が見えないとかえってそわそわするように。彼女が、ずぶ濡れになってシーツを手洗いする、そんな姿を見つけると、放っておけず手を貸すようになった。
そうして季節がふたつ巡る頃。婦人が収穫した野菜を洗う傍ら、オーブンのための薪を手早く燃やせるほどになっていた。家にたった一脚だけ置いていた椅子は二脚に増えた。
ずっとひとりで風や鳥の声と共に暮らしていた婦人。無愛想と評される彼女の寡黙さがむしろ心地よく感じるようになっていた。
彼女が、売られていた時に着ていた服しか持っていないと知った婦人。彼女に手ずから縫った服をプレゼントした。
一針一針丁寧に縫われた服を受け取った瞬間、彼女は手のひらにピリピリとした微かな刺激を感じた。そしてその刺激は柔らかい熱となって、次第に身体中へ広がっていった。エラーが起きたのかと自己メンテナンスで調べたが、異常は見つからなかった。
いつのまにか、毎晩婦人が聖書の一節を読みあげ祈りを捧げる際、隣で同じように指を組み、しばらく静かに待てば、その合わせた掌にじわりと刺激を感じられるようになった。
高齢の婦人は年月を追うごとに身体が小さくなり、食べることも歩くことも起きている時間も少なくなっていった。
そしてついには、起き上がる事はおろか排泄すら、彼女の助けがないと出来なくなった。
しかしそれでもなお、毎晩の祈りを欠かすことはなかった。
骨に紙を貼り合わせたかのような痩せ衰えた姿で寝床へ横たわり、彼女はとつとつと言った。
「かつて、わたしはとても罪深いことをした。けれど誰もわたしに罰を与えてはくれなかった。だから、この生活は私が自ら課した罰だった。
でも、あなたと過ごした毎日は今までになく心豊かな暮らしだった。後ろめたいほどに。
あなたはどこにでも行ける。これからは誰にも縛られず自由に生きなさい。」
彼女は、身体を動かせない婦人の望みに従い、婦人の手をそっとシーツから、すくい上げ、祈りの形に組んだ。
そうやって婦人に触れた彼女の掌には、いつものように柔らかな熱がおこった。それからというもの、その熱が消えることはついになかった。
婦人は祈りを捧げたその姿のまま、息子夫婦に看取られ息を引き取った。
婦人の弔いののち、彼女はふいに姿を消した。
しかし、そんな彼女を誰も気にかけていなかった。
そもそも、持ち主不在のアンドロイドは数時間で自動停止する。どこかで、行き倒れているのだろうと思われていた。
それから幾年が経った頃、遠く離れた国である噂がおこった。薄汚れた女型アンドロイドがどこからともなく教会に現れては祈りを捧げ、また去っていくという。
それを聞いた多くの人々は気味悪がった。
ところどころ表皮が破れ回路が露わになっているアンドロイド。軋む音をさせながら教会の扉を潜ると、誰もが眉をしかめて避けた。
肝試し気分で彼女の後をつけた若者は、夜に神妙な顔で戻ってきた。
アンドロイドは郊外の廃教会に入っていったと言う。すると、どこからともなく汚れた浮浪児たちが現れ彼女の膝元でくつろぎ、遊び始めた。まるで母や姉を慕うように彼女の膝にもたれ手を握る子どもたち。
彼女と子供たちの姿は不思議と穏やかであたたかく、しばらく目を離すことが出来なかったという。
この不可解な話はさらに物議を巻き起こした。
あの浮浪児たちがアンドロイドの「持ち主」とは思えない。持ち主のいないアンドロイドは自動的に停止しているはず。ではなぜ彼女は動けているのか、祈っているのか。
様々な憶測が駆け巡っては人々を騒がせた。
謎を解き明かすため彼女を分解しようとする者たちと、彼女の信仰を確信する者たちとの間で乱闘騒ぎすらあった。
そんな中でも彼女は相変わらず、静かな祈りを捧げていた。
そして、騒ぎの冷めやらぬ間に、彼女はその教会から姿を消してしまった。
数年後、彼女は別の国のとある教会に再び姿を現し、静かな祈りを捧げ、姿を消した。
その後も彼女の祈りはあらゆる国や地域で目撃され、徐々にその存在が世界中へ知られていった。
そして初めの目撃から一世紀をまたぐ頃。彼女のボディの劣化は激しくなり、ついに歩けなくなった。彼女は教会の片隅にひざまずいて、昼夜かかわらずひっそりと祈り続けるようになった。
スクラップのようになったボディを折りたたみ、奇跡的に表皮が残っている華奢な両手を組み合わせる彼女の姿。異様で不恰好だった。しかしもう誰も、彼女の祈りを邪魔するものはいない。その「心」を疑う者はいなかった。
そんなある日、一人の男性が彼女の前に立った。
思いがけない人物の出現に、教会へ訪れていた人びとは驚がくした。
今この世界で最も神に近しい唯一の御方が最小限の供を連れてやってきた。
彼は、彼女に相対するかのように膝を折り、その静かな祈りをしばらく見つめた。そして、感極まった微かな声で「祝福を」とつぶやき、埃だらけの彼女の額に優しく口付けた。
それは、どの儀式の様式にも則していない、純粋な友愛のしぐさだった。
息を殺して彼らを見守っていた人々は、理由のわからない涙でほおを濡らした。
そうして、彼女はその日の夜、静かに、そして完全に停止した。(おわり)
石居里佳
1980年生まれ愛知県名古屋市在住。
看護師として10年近く勤めるも、イラスト、物語、お芝居好きが嵩じてイラストレーターに転身。
現在はクラシカルで繊細なタッチを活かし、懐かしく優しく、少し切ない、そんな物語を感じるイラストを描いています。
【商品の説明】
作家 石居里佳が、絵と物語を考え、表現したオリジナルアート。ジクレー印刷の版画です。(企画・制作・販売 :あゆわら)
仕様 | ||||||||
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絵を引き立てるシンプルフレーム
天然木を使用したフレームです。木目を消さないナチュラルな塗装。色も形もシンプルで、絵を引き立てる。今どきのおうちによく似合う定番フレームです。
ホワイト・ナチュラル・ブラウン・ブラックの中からお好きな色に変更することも可能です。ご希望の場合は、ご注文時備考欄に「○○フレームに変更希望」とご記入ください。
風景写真や風景画(絵画)などのアートをインテリアとしてお部屋に飾り、
癒やしの空間を演出しませんか?
新築祝、開店祝、結婚祝や誕生祝などのおしゃれなギフト(プレゼント)としても好評です
絵といえば、ピカソ、ルノワール、ゴッホのひまわりといった名画が有名。
そのほか、フェルメールの青いターバンの少女(真珠の耳飾りの少女)を思い浮かべる人も多いはずです。
西洋画だけでなく、赤富士・富士山や桜といった日本画もよく聞きます。
アートはインテリアとしてリビングの壁に似合うことも大切です。
たとえばディズニーのようなかわいい壁掛け・壁飾りもおすすめ。
絵画は癒し効果もあるので、プレゼントとしてのご利用も多いです。
納期目安:この作品は、通常1週間かからないぐらいから2週間のお届けです。お急ぎの場合は、ご相談くださいませ。精一杯対応いたします。
人気作品紹介
ひまわりの丘1 スペイン・アンダルシア 10,000円(税込11,000円) スペインのアンダルシア地方のひまわり畑をモチーフに、明るくさわやかな風景をイメージして制作された創作アートです。 あゆわら創業期から続く、オリジナルアート。署名、ロット番号入りでの販売となります。 |
壁掛け桜皮細工(かばざいく)
18,000円(税込19,800円)
200年以上続く日本の伝統工芸 桜皮細工。
その伝統工芸を今どきの家に似合うようシンプルに新しくデザイン。
発売開始が日経新聞で記事になりました。
楽天ランキング1位も受賞した人気作。
あゆわらオリジナル企画・販売作品です。
リーフパネル モンステラ 4,999円(税込5,499円) 両面ガラスで背景が透ける珍しいフレームに、模造の葉っぱを配置。 植物は、主張が強すぎず、どこでも飾りやすい。 水やりも必要なく、枯れないし、壁掛けなので場所もとらない。 手軽なみどりなのが人気の理由。 |
アートフォト 青空と雲
10,000円(税込11,000円)
青い空に白い雲、緑の大地。
これぞ、北海道 富良野という印象の風景。 雲の形から風を感じます。
ここに行って、しばらく寝そべりたいです。
モネ 庭園のアーチスト 15,454円(税込16,999円) 印象派の大画家クロード・モネ作 「アルジャントイユのモネの庭」の複製画です。 鮮やかなダリアの群生と庭に佇む男女の対比が印象的です。 109cmx44cmという迫力あるサイズでこのお値段。 しかも、絵の表面に手作業でデコボコをつけ油絵の質感を表現するゲル加工付き。 |
アートフラワー ゴールドエース
10,580円(税込11,638円)
枯れない・清潔・手間いらず。
お花育てが苦手な人にも好評。
生花と違い、雑菌が少なく、水やりなどのお世話も必要なし。
飾れる期間を考えると経済的。
光触媒で消臭・抗菌効果も。
お祝いでも定番人気です。
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ミディ胡蝶蘭(生花)
4,800円(税込5,280円)
かわいらしいお花が特徴的。
黄色や白の品種、他サイズも取り揃えています。
品種改良により9か月も咲き続けるほど強い品種も登場。
世界らん展日本大賞など各賞受賞。
お誕生日祝いでも好評です。
黄色や白の品種、他サイズも取り揃えています。
アートフレーム 虹 2,250円(税込2,475円) 虹さんが帽子をかぶってる。 虹に書いてあるメッセージは、 「I wish you are always Smiling.(ずっと笑顔でいられますように)」。 飾ってると、毎日笑顔で過ごせそう♪ |
レントゲンフォト レッドマグノリア
22,579円(税込24,838円)
お花のレントゲン写真。
通常の写真撮影ではこのように透けません。
お花のかれんさ、生命力を感じるアート。
ゲルアート 目ざめのキス 7,675円(税込8,443円) 青く広がる海。白い雲。 地中海でしょうか。 眺めていると潮風を感じそう。 絵の表面に手作業でデコボコをつけ油絵の質感を表現するゲル加工アートです。 |
アートグリーン 壁掛けフィロ
3,579円(税込3,938円)
光触媒フェイクグリーンの壁掛け。
壁に飾って、お部屋にナチュラルなグリーンをプラス。
枯れない上に、水やりの必要もない手間いらず。
光触媒の消臭機能付き。
みどりは、洋室・和室 どのお部屋にも合う万能アートです。
ゲルアート サマー コーブ 10,210円(税込11,231円) 海沿いに立ち並ぶカラフルな家。 青い海にのんびり浮かぶ白いヨット。 オレンジ・赤・黄色。あざやかなお花が咲く美しい庭。 こういう場所でのんびりしてみたい。 絵の表面にデコボコをつけ油絵の質感を表現するゲル加工。 1点1点手作業で制作しています。 |
おすすめ商品の紹介
【版画 絵画】ひまわりの丘1 スペイン・アンダルシア/インテリア 壁掛け 額入り 風水 アート アートパネル リビング 玄関に飾る プレゼント モダン アートフレーム おしゃれ LLサイズ
20,000円(税込22,000円)
最新 売れ筋・人気商品
絵画 アンリ・マティス Les oiseaux,1947(Silkscreen) インテリア リビング 玄関 廊下 寝室 壁飾り 額付き おしゃれ シンプル 鳥 青 アート ギフト 壁に飾る 絵 | 絵画や壁掛けの販売
27,000円(税込29,700円)
光触媒観葉植物 インテリアモンステラ1.7 〔フロアタイプ〕 インテリア フェイクグリーン おしゃれ アートグリーン 緑 リビング 鉢植え プレゼント ギフト 玄関 キッチン 部屋に飾る 御祝 店舗 | 絵画や壁掛けの販売
26,000円(税込28,600円)